どっちにしたって
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


不意にとんっと背中を押されたような気がして、
我に返ってのこと、視野がパッと明るく開けたというか。
慌ただしくも翻弄されていた てんやわんやが
何とか落ち着いたことで、
ようやっと人心地つけて周りを見回せたというか。
そんな静謐の中にいる自分だと気がついた。
今日一日ずっと掛かりきりだったせいだろう、
仄かな疲労感が総身へじんわりとまといついていたが、
不思議と、消耗という感慨は一片もない。
大好きなスポーツや催しに頑張った後みたいな
爽快感とか充足感の方が強い、
そんな幸せな“くったり”に身をゆだね、

 “………えっと。”

何だったかな、思い出せないことがあるの。
ゆったり広々とした部屋には、
品のいい調度や シンプルながら機能的な家具が、
装飾品のような余裕ある配置で据えられてあり。
腰掛けているソファーに寄り添うローテーブルの上には、
今時分の季節の花としてのセレクトだろう、
大きな白百合を中心に
サンダーソニアやカスミソウが配されたブーケが置かれてあって。
オナガドリの尾みたいに長くて幅の広いリボンの、
パールがかった光沢が、柔らかなハレーションを起こしてて。

  あれ? おかしいな。
  ブーケ・トスしなかったかな、アタシ。

  ……………………。

ああ、そうだった。
それとは別のブーケだ、これ。
披露宴の会場だったホテルで、
会場に入る姿には やはり、
あった方がいいでしょうって用意して下さってて。
すぐ横には銀色のティアラ。
真珠とメレダイアをちりばめた、
華奢で可憐なデザインのにした王冠は、
金色の髪に載せるには、
似た色合いだから映えないかなぁなんて心配したけれど。
オーガンジーのベールの上へ据えられたせいか、
教会の天窓から降りそそぐ、いいお日和の陽を弾いてのキラキラと。
それは目映くて綺麗だったよって、
ヘイさんや久蔵殿からも褒められたもの…vv
そのベールを掻き上げてくれた手は大きくて。
壊れ物みたいに そおっとそっと、
やさしくしてくれたのが嬉しくて。

 「……七郎次?」

単なるアクセサリー以上に意味のあるティアラを、
感慨深げに手にとって眺めておれば。
随分と間近から、
少し枯れた、だが深みのある
低くて いい響きのお声がして。
え?え?と狼狽しつつ、辺りを見回しかかった視野の中、
すぐ目の前という至近に、愛しい壮年様のお顔があって。

 「あ、勘兵衛様?」

え?え?え?と、あまりの近さにどぎまぎしておれば、
それどころじゃあない、すぐのお隣へと腰掛けた年上の恋人さんは。
眩しいものを、それでも見ずにはおれぬというような、
優しくたわめた目許や口元へ、甘くて暖かい微笑みを馴染ませており。

 「今日はさすがに疲れただろう。」

いたわりの一言と同時に、
背を回っての肩先をスルリと、
頼もしくて大好きな、持ち重りのして見える手が伸びていて。
長身な御主だもの、
それは軽々と 年若な恋人さんの華奢な肩を
その腕の中へと掻い込んでしまわれたものだから。

 「あ…。////////」

しかもしかも、
そのまま尋深い懐ろへと引き寄せられたものだから。
間近どころじゃあない、
直に触れているも同然の感触や微熱が、
こちらの血脈を急かさせる。
隆と精悍に引き締まっての、堅く盛り上がった筋骨が。
ジャケットを脱いだだけだとはいえ、
シャツとベストなぞ素通しなくらいに、力強い存在感を主張していて。
こちらも夏のブラウス姿だったので、
ともすれば、ほぼ密着に近い質感を伝えて来ており。

 “あ、あ、どしよどしよ。//////////”

  そうだった、あのあの、
  アタシ、勘兵衛様の お嫁さんになったんだ。/////

やっぱり緊張した“結納”のあと、
手配だ何だといろんな準備をこなしている間は、
忙しいばかりだったせいか、
具体的な実感が遠のいてた感じだったけれど。
今日はさすがに勝手も違って。
逢う人逢う人 みんなから、
山ほどのおめでとうを言われて、すっかりと舞い上がってて。
緊張し過ぎて胸が苦しくなるたびに、
あのね、勘兵衛様が
テーブルの陰で、あの大きい手で
こっそりと手を握ってくれててね……vv



 「お式も厳粛で感動ものだったようだし、
  その後の披露宴も、
  父様の知り合いから警察関係の人たちまで
  そりゃあ たっくさん来てたはずなのに。
  起きてからはというと、
  征樹…佐伯さんのお顔さえ、出て来なかったような気が。」

 「でも、披露宴の様子とかは覚えているのでしょう?」

手を握っていてくれただなんて言ってたほどだしと、
クラッシュアイスも涼しげな、
カットグラスへとそそがれたアイスティ。
マドラー代わりのストローでくるんと掻き回しつつの
ひなげしさんからのお言葉へ、

 「う…ん。それがね、何だか部分部分が不鮮明なんだな。」
 「え〜?」
 「あ、ヘイさんや久蔵殿が、
  おめでとうって拍手してくれたり
  司会とか進行とかまでやってくれたのは
  ちゃんと覚えてるんだよ?」

久蔵殿は教会でエレクトーンを弾いてもくれたし、と。
蕩けそうなお顔で微笑みかければ、

 「……。(頷、頷)」

紅バラ様も幸せそうに頬を染めてしまうところが相変わらず。
まだ正式な“夏休み”には入ってない彼女らだが、
期末考査の採点のためという名目での休みに入っておいでの、
我らが三華様がたは といえば。

 遠出には遅すぎるかもですが、夏の予定を立てましょうかと

何となれば各々のコネや伝手が半端ないお嬢様たちだもの、
ホテルや飛行機の予約が間に合わなくとも大丈夫と。
まだまだ梅雨のうち、
ちょっぴり湿気の多い空気がむんと垂れ込める中、
草野さんチへお顔を揃えた3人娘。
リゾート地や観光ツアーを案内するガイドブックや、
それぞれに可愛らしい自分たちのスケジュール帳を広げたものの、

 『…あのねあのね、実はねvv』

ローマだったかギリシャだったか、
白い建物が連なる紺碧の海辺の写真を眺めていた七郎次が、
一体何を思い出したか、
アイスティのストローをよじよじと回し始めての、
唐突に含羞み出したもんだから。
何だ何だと、あとの二人がそれは素直に食いついた結果、
引っ張り出されたのが、冒頭からこっちの

  白百合様が寝苦しかった昨夜に見た夢、だったそうで。

しかも、目覚める直前ほど鮮明になるというセオリー通り、
式も披露宴も終わりました、
明日にもハネムーンに発ちますよという二人っきりの宵の一幕が、
始まろうという正に そのときに

  イオちゃんがベッドへと飛び乗って来たもんだから

勘兵衛様が何か言いかけてらしたのに。
えっと頬染め聞き返しかかったそのまんま、
自分のお部屋のベッドの上で目が覚めたのだとか。

 「本当に不覚です」

白いこぶしを握り締める七郎次の傍らで、

 「全くですわね。」

何故だかひなげしさんも残念がっており。
……って、なんであなたまでが。

 「え? だってシチさんたら
  披露宴のこと 覚えてないなんて言うんですもの。」

きっと私も久蔵殿と組んで、
たっぷり練習した余興をご披露したはずなのに。

 「シチさんが覚えてないということは、
  インパクトがイマイチ足りなかったからに違いない。」

 「………。(頷、頷)」

そそそ、そっちですか? 問題なのは。
片やは さらっさらの赤い髪とふんわり柔らかな肌が自慢の猫目の少女と、
もう片やは…今日はちょっぴり膨らんだのが不服そうな金の綿毛の少女と。
どちらも、それは瑞々しい水蜜桃のような美少女二人だというに。
まるで真剣勝負に挑む直前であるかの如く、
鋭利な太刀の切っ先もかくやという、研ぎ澄まされた表情になると、
互いの眼差しを真摯に見据え合い、
きっと素晴らしいものを完成させるのよ、よろしくて?
ええ、それはもう…と
そりゃあくっきり頷き合っていたりするのだが。


  シチさんシチさん、
  そんなタイミングで目が覚めたのが残念だったのは、
  本当に、本っ当に、
  披露宴とか全然覚えてないからって…だけ、なんでしょうか?


  “え〜〜〜〜?
   何のお話か、おシチ判んない〜〜vv”(こらー)




      〜Fine〜  2012.07.12.


  *寝苦しい季節の到来です。
   風がなくはないのですが、
   一昨日の晩や昨夜は、
   とにかく蒸し暑くってたまりませんでしたので。
   こういう脱線話をついつい思いついてしまいました。
   あんまり蒸し暑かったので、
   白百合さんたら、
   あのロン毛の警部補が密着して来た夢を見ちゃったんでしょうね。
   ちょっと想像してみましょう。
   ……………う〜ん。
   蒸し暑いようですよ、今日も。(おいおい)

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